思想と行為が弾劾し合い心が宙に彷徨ったブログ

私の生きた軌跡をここへ残しておきます

老人

f:id:Nao0309:20180515204705j:plain

 

私達2人は縁側に座って、小さなオモチャの鯉のぼりを眺めていた。
風に揺られて、鯉は空中をヒラヒラ泳いでいる。


これは私が先週、彼女にプレゼントしたものだ。
鯉のぼりを出す家が少なくなったと彼女が嘆いていたからだ。
テッセンの花が植えてあるプランターに小さな鯉のぼりを飾った。


先週、私がプランターに挿した際には、父鯉と母鯉と子鯉の三匹いたはずなのだが、
風に飛ばされたのか一番上の父鯉がいなくなっていた。

 

私「あれ、お父さん鯉がいなくなってますねぇ。どこにいったんでしょうか。
シングルマザーになってますね。」


私がこういうと、彼女は溜め息をついてこう言ってきた。


「あんた、結婚するときは一番好きな人とは結婚したらいかんでぇ。」

 

彼女は現在80代で夫は数10年前に他界している。

 

私「それじゃ、〇〇さんは二番目に好きな人と結婚されたんですか」


彼女は首をまわして居間に飾られた亡くなった夫の遺影に目を向けた。


そして遺影を指差してこういった。


「あの人なんか、七番目くらいじゃわ」


私は思わず吹き出してしまった。
しかし、彼女の目は真剣だ。
彼女の話はいつも面白いのだが、本気で言ってるか冗談で言っているのか分からない。
そこがまたさらに面白いのだが。


「私の一番好きだった人は戦争で死んだよ」


彼女は視線を雲一つない青空へうつした。
目を細めて遠くを見つめている。


お、これはロマンチックな話が聞けそうだ、、、と私は少し期待した。


私「本当はその人と結婚したかったんですか?」


少し間が空いて彼女は口を開いた。

「いやぁ。あの人のことは好きだったけど、もし結婚してたら、毎日あの人に嫌われないように気を使って、自分の容姿や身なりにも気をつかって、自分らしくは生活できなかったわぁ。
その点、結婚した旦那はまこっとにブッサイクだったし、恋心もなぁんもなかったから、私は気を使うこともなく、好き放題さしてもらったわぁ。旦那の方は私にほの字だったからねぇ。」


そして彼女は視線をシングルマザーの鯉のぼりへとうつした。


私「な、なるほど。旦那さんはどんな人だったんですか?」


「なぁんも、面白みもないし、口数も少ない男だったわ。けど、私のことを大事にはしてくれたわな。
私が家事をおろそかにしようが文句一ついわんかったわ。財産も年金もたぁっぷり残してくれたし。
旦那が亡くなった後も、友達と旅行にたくさん出かけられたし、社交ダンスやら尺八やらで楽しませてもらったわ。」


彼女の顔には当時は美人だったであろう面影と自信が残っている。
そして彼女は夫に深く愛される才能を持っていたのであろう。


「一番好きだった人との思い出は心に残っとるから、美しい思い出は美しいままに残しておくのが一番いいんじゃ。」

と彼女は真顔で言った。


そして彼女は自分の両膝をさすりながら、いつものボヤキが始まった。


「この年になると体は痛いとこだらけで、どこにも行けんし、
子供も孫もひとっちゃ顔見せにもこんし、昔を思い出すくらいしかすることがないわぁ。
長生きもするもんじゃないわぁ。はよぉ死にたいわぁ・・・」


私「そうですねぇ。〇〇さんが死んだら、天国で旦那さんと初恋の人とどちらが待ってますかねぇ?」

 

彼女は少し考えてからこう答えた。

 

「そうだねぇ・・・。もし私が天国に行った時に10代の頃の私の姿なら初恋の人に会いたいけど、今のこのシワもぐれのバァサンのままなら、旦那でええわぁ。」

 

私「んーたしかにそれがいいかもですねー。旦那さん、首を長くしてまってますよ。
旦那さんに再会したら何っていいます?」


「そりゃぁ、「ずっと、あなたに会いたかったわー」って涙を浮かべていうわなぁ。
ほんで、あの世でも面倒みてもらおうかねぇ。」

と彼女は真顔で言った。


「人生長いと思いよったけど、この歳まであっという間やったわ。あんたもすぐ歳とるよ。」


彼女は震え上がるような恐ろしい言葉をいう。
私も気づいたら80代になっているのだろうか?


「子供なんて大事に育てても、大人になれば1人で大きくなったような顔して、私のことなんか知らん顔しとるわ。
この年になったら、体は痛いところだらけでどこにも行けんし、話するぐらいしか楽しみはないんよ。
やっぱり、一緒におしゃべりが楽しくできる相手が一番ええでぇ。だから、あんたは、はよ結婚せられぇ。」

 

私「そうですねぇ。つまり楽しくおしゃべりができて、自分が気を使わないくらいのそこそこの相手がいいということですね?」


こういうと、彼女は笑い出した。


「それがいいだろうねぇ。でも話するだけなら、できるだけ男前がええわぁ。」


私「そうですねぇ(笑)」

 

 

さて、こんな話をしてる私たちは天国にいけるだろうか?


天国から私たちの会話を彼女の夫が聞いていないことを私は切に祈るのであった。

 

 


Can you imagine what the person who stand by you will be like 50years later?

Are you enjoying your conversation?
Do you have a relaxing,comfortable time?