思想と行為が弾劾し合い心が宙に彷徨ったブログ

私の生きた軌跡をここへ残しておきます

自己愛

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〝月夜の浜辺〟


月夜の晩に、ボタンが一つ

波打際(なみうちぎわ)に、
落ちていた。

それを拾って、役立てようと
僕は思ったわけでもないが
なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、袂(たもと)に入れた。

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちていた。

それを拾って、役立てようと
僕は思ったわけでもないが
月に向ってそれは抛(ほう)れず
浪に向ってそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。

月夜の晩に、拾ったボタンは
指先に沁(し)み、心に沁みた。

月夜の晩に、拾ったボタンは
どうしてそれが、捨てられようか?

 

 

詩人 中原中也の有名な詩である。


中也は数々の名作を持つ詩人として天才と呼ばれているが、
パーソナリティ障害の心理を持ち、友人や異性関係でトラブルを繰り返していたのは有名な話である。


私生活では自由奔放に見えるが、作品を見ていくと、内面はとても繊細で傷つきやすい心理がみえるのである。


今回はパーソナリティー障害の中から
個人的に関心の高い、自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic Personality Disorder)についてとりあげる。

 

DSM5による NPDの診断基準


誇大性,賛美されたい欲求,共感の欠如の広範な様式で,

成人期早期までに始まり,種々の状況で明らかになる.
以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される.

 

(1)自分が重要であるという誇大な感覚

 

(2)限りない成功,権力,才気,美しさ,あるいは理想的な愛の空想にとらわれている.

 

(3)自分が“特別'‘であり,独特であり‘他の特別なまたは地位の高い人達(または団体)だけ が理解しうる,または関係があるべきだ,と信じている.

 

(4)過剰芯賛美を求める.

 

(5)特権意識(つまり,特別有利な取り計らい,または自分が期待すれば相手が自動的に従うことを理由もなく期待する)

 

(6)対人関係で相手を不当に利用する

 

(7)共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない,またはそれに気づこうとしない.

 

(8)しばしば他人に嫉妬する,または他人が自分に嫉妬していると思い込む.

 

(9)尊大で傲慢な行動または態度

 


疫学

一般人口における生涯有病率は1%、病院患者においては2%〜16%と推定されている。


ここ10年で自己愛性パーソナリティ障害の発生率は2倍以上に増加している。


NPDと診断される人のうち50~75%が男性である.

 

 


特徴

 

NPDの人物は傲慢さを示し、優越性を誇示し、権力を求め続ける傾向がある。


彼らは称賛を強く求めるが、他方で他者に対する共感能力は欠けている。


また、人より優れているという、高い自己価値感を有しているが、

実際には脆く崩れやすい自尊心を抱えている。

 

批判を処理することができず、自己価値観を正当化する試みとして、

しばしば他者を蔑み軽んじることで内在された自己の脆弱性を補おうとする。

 

 

 

分類

 

NPDは数多くの報告が成される中で、顕在型(無関心型)と潜在型(過敏型)という2つのタイプに大きく型分けされるような障害として認知されてきた。


その報告を行ったのがグレン・ギャンバートである。


これらの表現型の違いは、彼らの持つ誇大的自己が内的にどのように処理されるかによって、その現れ方が変わってきたものと理解される。

 


自己愛な人(無関心型)

 

Rさん

生まれた時から、敏感な気質があり夜泣きが酷かったようだが、
両親は愛情をそそいで育てた。


成長し顔立ちがはっきりとしだすと彼の周りの環境は変化していく。
彼は、並外れて優れた容姿をもっていたのである。


両親は彼を連れていると周囲からの称賛の声を浴びせられたという。
このような体験は、特に母親の自尊心を満足させ、我が子への過大評価へと繋がった。

両親から大切に育てられ周囲が過度に与えた賞賛は彼の自意識の形成を大きく助けたに違いない。

成長に伴い、更に顔立ちが整い、長身も手に入れた彼はさらに自己愛を強める。


学校に通うようになると、その容姿と自信に溢れた口達者な振る舞いでクラスの中心的存在となる。
しかし、彼は自分より容姿の劣る者や自分の意に反する者を貶し虐めた。
また、彼は、兄弟にも批判的な態度を示したのである。


自分がほしいのに得られなかったものを持ってたり、自分よりも良い成果をあげたとき、激しく批判し、破壊しようとした。

 

少年時代は学業成績もよく、進学校へと進む。
しかし、そこは全寮制の学校である。


厳しい上下関係、自分を甘やかしてくれる両親の不在により彼の自尊心は傷ついた。
彼は挫折や反対意見、批判に我慢強く耐える能力がないのである。

 

その後、成績は下降。落第。
落第したという事実と後輩たちと授業を受けるという事実に耐えれず、自らの意思で退学する。


その後、就職するが共感性も不足しているため、人と協調的に仕事をすることが困難であった。


しかし、その容貌と口達者で自信家な振る舞いは異性には魅力的にみえるようである。


恋人に多大な献身をあてにし,その人の苦労や心情は意に介さず利用する。

 

自分の目標を助けてくれるときか,自分の自尊心を満足させると思えるときに限って,友人関係や恋愛関係を結ぶのである。


恋人に至っては利用価値のみではなく、美しい自分に値するだけの容貌を兼ね備えているかも判断基準となる。

 

 

 


Sさん(過敏型)

 

幼い頃から背が低いというコンプレックスがあった。


それを代償するように勉強に励む。


学校では、みなに平等で親切なふるまいをし学級委員や生徒会長を務めるなど模範的生徒になった。


周りに横柄なふるまいをすることはなかったが、人からからかわれたり、勝負事に負けることを極度に嫌った。

 

スポーツが好きでサッカー部に入部したのだが、レギュラーにはなれなかった。

 

活躍する仲間を応援することに耐えられず、
周りには勉強に専念したいという理由で退部した。

 

そして更に勉強に熱意を向けた。

 

その後、難関大学へと進学し税理士となる。
自己愛を満足させるための社会的地位を手に入れたのである。

 

税理士になってからも熱心に仕事に取り組み、

高いスキル・顧客からの信頼も手にする。


それでもなお他者の反応や評価が気になって仕方がないのである。

 

それは異性関係にも現れている。


好みの女性には優しく、マメな行動をとるのだが、

自分の好意を受け取ってもらえない時には、

自尊心はひどく傷つき、無視や軽蔑、怒りなどの行動にでるのである。

 

少しの批判でも、自分を拒否され、屈辱を与えられたと感じる。


そのため、周囲には自分を賞賛してくれる人間しかおかない傾向がある。

とても過敏で傷つきやすいのだが、
自分は周りよりも優秀な人材であるという自信は揺るぎないのである。

 

 


上記した2人はグレン・ギャンバートの分類にあてはまるが、
しばしば、NPDの人々は無関心型と過敏型が混合し、状況により反応は大きく変動する印象を受ける。

 

 

 

NPD の人はどのような経過をたどるのか

 

 

NPDの人々はしばしば野心的で有能なことがあり高い地位についたり、

社会に大きな貢献をする人も多い傾向がみられる。

 

しかし、加齢につきものである美しさの損失、肉体および職業上の制限が出現したときに適応することが特に困難であるかもしれない.


NPDを有していたとされる有名人として三島由紀夫が思い浮かぶ。


彼は加齢による美の衰えを極度に恐れた。

 

やがて国家主義的思想に自らの在り方を重ねていった三島は、

割腹自殺により、美を保ったまま自らの人生に幕を下ろしたのである。

 

 

NPDの人々について考える

 

自己愛とは言い換えれば、自らを大切に思う気持ちであり、
生きていく上では重要な感情である。


ただ、自己愛があまりにも大きくなり、
そのことに対して本人が苦痛を感じたとき問題となってくるだろう。

 

私が出会ってきた自己愛の強い人たちはNPDの診断基準をみたしているが、
個人差は大きく、それぞれの行動様式があり、個性がある。

 

そして彼らのは一見すると自己中心的にもみえるが、接していくと、
とても理論的に世界を捉えていることが分かる。 知的レベルが高く、繊細で感受性が強く、 ロマンチックなパーソナリティーをもつ印象を受ける。

 

オルポートによると人格(personality)とは

 

「個人の環境へ適応を決定するような心理的身体的な諸所のシステムからなる、個人の力動的組織である」

と定義されている。

 

人格とは、人間を構成する
さまざまな心理的・身体的な要素を統括する上位のシステムであるということ。


そしてそれは、個別的であるということ。
また、その個人は環境を適応するが、それは受動的ではなく、
自ら環境の意味を変革していく能動性をもつものであると述べられている。

 

 

つまり、私たちが世界への捉え方を変えることによって
人格は変化していくものであるということである。


そして、人格は解離的で多面的なものである。
恋人の前の私、職場での私、さまざまな人格が出現するのは当然のことであろう。

 

彼らの言動や行動の背後にはどのような心の仕組みがあるのか
完全に理解することは難しい。


また、NPDの人々の世界へ、入れてもらえるかどうかも難しい問題である。


彼らはそもそも理解してもらいたいとも思っていないかもしれない。

 

だが、私は彼らの心の背後には表面に現れていない秘密が潜む気がしてならない。


そして強い興味をもたずにはいられないのである。

 

彼らの心の平衡状態が崩れた時、それをきっかけに、
新たな人格のイノベーションへと向かっていってはくれないだろうか。

 

その過程において、
ともに歩んでくれる他者が存在することは大きな助けになるのでないだろうか。

 

短い距離でもともに歩むことができるなら嬉しいことである。

 

 


Personality is the dynamic organization within individual of those psychophysical systems that determine his unique adjustment to his environment.